1. 現場で感じた危機感
ある日、公務店や大工さんの集まりに参加した私は、強い衝撃を受けました。「このままでは、大工という職業が本当に消えてしまうのではないか」という現場の声。
建設業界では、ただでさえ人手不足が叫ばれているなか、特に若手の大工が著しく減少しています。
これは、単なる業界の問題ではなく、日本の住宅文化を支える“人”がいなくなるという危機そのものです。
2. 大工人口の減少が止まらない理由
住宅着工数が年々減少しているのは事実ですが、それ以上に大工さんの数が急激に減っています。
過去には約40万人近くいた大工も、今や10万人台にまで減少したというデータもあります。
これは世代交代がうまくいっていない証拠であり、同時に“職人の仕事”への興味が薄れている社会背景も大きく影響しています。
3. 着工数の減少とミスマッチ
着工数が半減すれば、大工の数も半減でバランスが取れる…と思いきや、現実はそう簡単ではありません。
リフォームやメンテナンスの需要は変わっていないため、現場では人手不足がより深刻に。
結果、大工一人ひとりの仕事量は増え、スケジュールが回らず依頼を断らざるを得ないことも多くなっています。
4. 分業化された「階段専門の大工さん」たち
最近では、「階段だけ」「石膏ボードだけ」など、分業による専門職の大工が増えていました。特に量産型の建売住宅においては、速さが命。
そのため分業が進み、効率化が優先されたのです。しかし、住宅着工数が減れば、そうした“特定部分だけ”の大工は仕事がなくなっていきます。
結果、職人としての幅を広げる機会も失われてしまいます。
5. 「棟梁」のような職人が減っている現実
かつては家を一軒丸ごと作れる「棟梁」がいました。刻みから建て方、内装、さらにはメンテナンスまで一人でこなす。
それが日本の住宅文化を支えてきた伝統的な大工です。
しかし、今はそうした万能型の大工が減少し、細分化された技術者だけが残る状況。家づくりの“魂”を感じる職人が少なくなっているのです。
6. 専門化ゆえの若手育成の壁
分業化された現場では、若手が「全体像を学ぶ場」を失ってしまいます。階段しか作れない職人の下に入っても、他の技術は学べません。
「全部教えてほしい」という志のある若手ほど、分業の現場に魅力を感じられないのです。
結果として、育成の場が不足し、将来の棟梁が育たなくなるという悪循環が生まれています。
7. オーラのある家とは何か
「この空間、なんかいいな」と感じる家には、空間を引き締める力があります。
それは、仕上げのわずか0.何ミリを大工が魂を込めて“収める”ことで生まれる“オーラ”です。
継ぎ目が見えず、美しく納められた部材たちは、まさに“武士道”にも似た美意識の結晶です。

8. 大工という仕事の誇りと魂
夏の暑さ、重い材料、地味な作業…。
それでも大工は、人の暮らしを支える尊い仕事です。子どもの頃「将来は大工になりたい」と夢を見た人がいたように、大工は憧れの職業でもありました。
ですが、今はYouTuberのような“派手さ”に押され、地味でキツイというイメージだけが残ってしまっています。
9. 魅力を伝えることの大切さ
大工は、ただの“施工者”ではありません。空間を創る芸術家であり、暮らしの設計者であり、文化の継承者です。
そうした魅力や凄みを、もっと社会に伝えていく必要があります。
斎藤建設のようにYouTubeなどを通じて「語る場」「見せる場」をつくることも、大きな第一歩になるはずです。
10. 家づくりの未来を守るために
大工という仕事は、住宅業界の“花形”でありながら、今もっとも危機的な状況にある職種です。
ここ川越市・坂戸市・鶴ヶ島市といった地域でも、住宅の着工数は緩やかに減少していますが、
それ以上のスピードで現場の大工さんの数が減り続けているのが現実です。
「仕事はあるのに、大工が足りない」――
それが、私たちが日々感じている大きな課題です。
さらに、効率化を求めて進んだ作業の“分業化”は、
一人ひとりの大工が身につけるべき技術の幅を狭めてしまいました。
柱一本を納めるにも、墨付け・刻み・納まり・美観・構造……
本来はすべてを一人の大工が担うからこそ、その家に“人の技と心”が宿るのです。
家とは、ただ「早く・安く」建てればよいものではありません。
たとえば、川越の町家のような木の美しさと粋な納まり、
坂戸や鶴ヶ島に広がるのびやかな暮らしを支える自然な間取り――
それらはすべて、大工の経験と勘、そして誇りから生まれるものです。
ピタリと納まる無垢材、自然と空気が通うような設計、
そして10年、20年経っても崩れない仕上がり。
それらすべてが“大工という技術者の魂”の証です。
今こそ、私たち地元の工務店がこの職業の価値を社会に再発信する時。
「大工になりたい!」と胸を張って言える若者が、再びこの地域から育っていくように――
私たちはこれからも、技術と誇りの橋渡しを、真剣に・丁寧に続けていきたいと思います。

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